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さんごくし

三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 頁

青空文庫

ひるみ立った兵は、口々にいいながら、函門のなかへ逃げこんだ。

太守韓福は門のわきに馬を立てて、唇を噛んでいたが、群雀を追う鷲のように馳けてくる関羽を目がけて、ひょうっと弓につがえていた一矢を放った。

矢は関羽の左の臂にあたった。

「おのれ」と、関羽の眼は矢のきた途をたどって、韓福のすがたを見つけた。

赤兎馬は、口をあいて馳け向ってきた。韓福は怖れをなして、にわかに門のうちへ駒をひるがえそうとしたがその鞍尻へ、赤兎馬が噛みつくように重なった。

どすっ――と、磚のうえに、首がころげ落ちた。韓福の顔だった。あたりの部下は胆をひやして、われがちに赤兎馬の蹄から逃げ散った。

「いでや、このひまに!」

関羽は、血ぶるいしながら、遠くにいる車を呼んだ。くるまは、血のなかを、ぐわらぐわらと顫きめぐって、洛陽へはいってしまった。

どこからともなく、車をめがけて、矢の飛んでくることは、一時は頻りだったが、太守韓福の死と、勇将孟坦の落命が伝わると、全市恐怖にみち、行く手をさえぎる兵もなかった。

市城を突破して、ふたたび山野へ出るまでは、夜もやすまずに車を護って急いだ。簾中の二夫人も、この一昼夜は繭の中の蛾のように、抱きあったまま、恐怖の目をふさぎ通していた。