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さんごくし

三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 頁

青空文庫

三

書斎らしい一堂がある。

縁も廂も、雪に埋もれ、堂中はひそとしている。

破れ芭蕉の大きな葉が、雪の窓をおおっていた。玄徳はひとり階下へ寄って、そっと室内をうかがってみた。

――と、そこに。

寂然と膝を抱いて、炉によっている若者がある。若者は眉目秀明であった。堂外にたたずむ人のありとも知らぬ容子で、独り口のうちで微吟していた。

鳳凰は、千里を翔けても

珠なき樹には棲まずという

われ困じて一方を守り

英主にあらねば依らじとし

自ら隴畝を耕して

いささか琴書に心をなぐさめ

詩を詠じて鬱を放ち

以て天の時を待つ

一朝明主に逢うあらば

何の遅きことやあらん……

玄徳はそっと階をのぼって、廊の端にたたずんでいた。だが、興をさまたげるも心ない業と、なおしばらく耳をすましていたが、微吟の声はそれきり聞えない。

おそるおそる堂中をうかがってみた。炉によったまま、その人は膝を抱いて居眠っているのである。さながら邪心のない嬰児のように。

「先生。お眠りですか」

試みに、玄徳がこう声をかけてみると、若者は、ぱっと眼をみひらいて、

「あっ。……どなたですか」と、おどろきながらも、静かにたずねた。