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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

(なぜ、今夜に限って、こんなことが、気にかかるのか? 大事な役を勤めておりながら、何んという臆病な――)

と、自分を励ましたが――そう思う次の瞬間に、後方の襖の中から、鬼のような、化物のような奴が、こっちを見ているような気がした。

左右の次の間には、典医と、侍女と、宿直の人々とがいたが、物音も、話声もしなかった。

寛之助の母の英姫は、寛之助が安眠したのと、斉彬が未だ起きているので、その部屋の方へ行った。英姫が、去ると、蘭法医の寺島宗英も、漢法医の延樹方庵も、控えの間に退ってしまった。そして、徹夜をして詰めていた侍女が、更代に出て、近侍も、七瀬に頼んで休憩に下るし――それらの人々は、次の間か、遠くないところにいるにちがいないのだが、物音一つしない静かさで、七瀬一人が灯影のゆらぐ下に坐っていた。

長男の菊三郎は、生れて一ヶ月日に死んだので、誰も気がつかなかったが、澄姫と、邦姫の二人は、三歳と、四歳になって、原因不明の病で死んだから、人々の記憶には、十分残っていた。

この二人の死ぬ前の症状と、寛之助の近ごろとが、よく似ているのであった。時々、熱を出して、よく怯えて――この十日程前から眠入っていても、出し抜けに泣いたり、眼の中いっぱいに、恐怖の色を見せて、小さい掌に汗を出していたり