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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁
三年越しにて参りましたる江戸の形勢は、仰せの如く、開けて参っておりまする。御賢明の段、当家のために、祝着至極、老人、思い残すところ、一つも、ござりませぬ」
調所は、脣に微笑を浮べて、眼に、涙をためていた。それを、暫く、拭きもしないで、じっと、襖を凝視めたまま、微笑していた。遠くで、時計が、三つ鳴った。
調所は、膝の上に置いている毒薬の入った掌を、口へ当てて、仰向いた。掌が空になると、水を取上げて、一息に飲んだ。そして、仏壇と、斉興の方とへ、御辞儀をして、床の上へ坐った。白い木綿の下蒲団の上に、甲斐絹の表をつけた木綿の上蒲団であった。その上へ、仰向きになって、眼を閉じた。幾度か枕を直してから、身動きもしなくなった。
だんだん、胃が熱くなって、呼吸が、せわしくなり出した。
(楽に死ねると、いっていたが――)
調所は、熱さを増して来る胃の腑を、じっと、眺めていた。そして、脈へ手を当てると、脈搏は、急であった。自分でも、感じるくらいに、呼吸が烈しく、肩が、自然に動き出した。然し、胃は、それ以上に、熱くなって来なかった。
その内に、身体中が、少しずつ、倦くなってきた。