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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

牧は、灰色の顔をして、弟子の叩頭に、答えもしないで、壇上へ手を延して、戒刀を取り上げた。

今日の行の、ただならぬことを察している弟子達は、牧のすることに不安を感じながら、見守っていると

「今日の修法は一人でよい」

と、静かにいった。そして、弟子達が立上るのに眼もくれず、戒刀を抜いて、左手に持った。そして、膝の前に、微かに、瞬いている燈へ、段木をつきつけて、火が燃え上ると、火炉の中に積み重ねてある木の下へ、差し込んだ。

煙は、部屋の天井を這い廻っていた。異臭は、襖の外まで洩れていた。部屋の中は、薄暗くて、むせっぽかった。

牧仲太郎の眼は、狂人の眼であった。何かを、宙に凝視めていたが、その一点を、じっと、睨んだまま、またたきもしなかった。その眼は、人間の眼でなく、悪魔のように、光った凄さを帯びていた。

火炉の灰を塗りつけた額には、冷たい汗が、滲んでいたし、はだけた胸には、滴って流れていた。脣も、手も、膝も、がくがく顫えていて、時々、身体を浮かしては、立上りそうになった。

右手の戒刀を、引っつかんで、時々、振上げかけては、脣を噛んで、膝の上へ当てたり、左手の画像を、抛げつけかけては、顫える手で引込めた。