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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

母親は、袖を顔へ当てていた。

「さあ、遅うなるから――」

と、左太郎を、母親に渡そうとすると、左太郎は、身体をもがいて、泣顔になった。そして、母親に抱かれると、足で母の腹を蹴って、泣き出した。

「乳でも、飲ませてやれ」

「はい」

「泣くのではない。不覚者っ、何が悲しい」

「旦那様――この、お坊さまを、遠島になどと――」

と、老女が、おろおろした声で、二人の間へ、顔を出した。

「お前も、よく勤めてくれた。後のことは、親族共が取計らってくれるから、心配致すな」

「いいえ、妾は――妾は、お坊様のお供をして、何処までも参りますから――決して、御――御心配の――」

と、まで云って、又、泣き伏した。左太郎は、母親に、乳房を、押しつけられて、暫く、乳を呑んでいたが、眼を閉じたかと思うと、もう眠入るらしく、時々しか、乳房をふくんでいる口を動かさなくなった。

「坊や、坊や、お父様の死目に――」

と、云って、母親は、子供の背へ顔を押しつけて泣き入った。五郎右衛門は、じっと、子供の寝顔を眺めていたが、眼瞼に、涙が、滲み上ってきた。

「余り、同志の者に、遅れてもならぬ。それでは、御一同」