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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

「ふむ、餅屋、繁昌して、よかろう」

「お蔭様で――あの、娘さんは?――一体、何処の?」

「ありゃ、山の狐じゃ。淋しいから、わしの嬶にしてしもた。子が生れると、安倍晴明になる」

「へへへへ――もう、あの方々、皆、お立ちで?」

「京へ下りた。てんぼうが一人だけ残っている。餅を少し分けてくれんか」

「さあさあ、何うぞ、お持ち下さいますよう。五十も――」

「結構結構」

軒下には「弁慶力餅」と書いた看板が、屋根のところにも、同じ文字の白い旗が、山風に翻っていた。

根本中堂へ行く人も、四明ヶ岳へ行く人も、ここの前が、通り路であり、そして、この茶店が、唯一軒の休憩所であった。

三人の侍が、上着を脱いで、肌衣の腕も捲り上げ、手拭をつかんで、編笠の下の顔を、時々拭いながら

「やれやれ」

と、叫んだ。一人の侍は、暑さも、汗も感じぬらしく、端然として、扇子を右手にしていた。だが、茶店の前へ来ると

「許せ」

と、云って入って行った。お盆へ、小さい餅を盛っていた亭主が

「ようこそ」

と、叫んで、小さい女に

「これっ」

と、声をかけた。何か、手工に夢中になっていた女が

「お餅でござりますか」

と、甲高い声で叫んで、立上ると、侍が、四人立っていたので、それきりで、黙ってしまった。