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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

(そうだ。彼のやりたいように、やらせて見ていたがいい)

とする傾きが濃くなった。

その頃、吹上の裏の密林から、大樹の間のせまい坂道を馳け下りてくる者があった。何か、あわてているような藪田助八の姿である。黒鍬屋敷の内へはいると、牧野因幡守に目くばせして、縁の片隅で、ひそひそ訊いていた。

「越前どのとの、お話し合いは、つきましたかな」

「いや。まだじゃ……」

「まだ、だいぶお暇が要りましょうか」

「あのように皆、気まずい沈黙と沈黙になってしもうた。おそらく、越前どのの承服は、望まれまい」

「では、御内意は」

「妥協はせぬという態度じゃ。ずいぶん諭したつもりじゃが」

「それは、弱りましたな。はて、何としたものだろう」

「上様は」

「きょうの事が、しきりと、お気にかかるのでしょう。仰せ出しの時刻よりもちと早く、すでに、吹上のお茶亭へお渡りになり、ただお一人で、越前はまだかと、再三の御催促なので」

「ありがたい思し召に反いて、彼が、無用な強情をいい募っておろうなどとは、お上にも、ゆめ、御存知ないのでござろうが」

「それは元よりです。さだめし、越前が、御仁慈によろこび、君恩に泣きぬれて、御自身の前に来るであろうに――と、その姿をお待ちかねなのです。