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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《日本怪談大全 第一巻 女怪の館(がまのち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 頁

青空文庫

(あれじゃないか)

広巳はぴたりと足をとめた。広巳の眼の前には初春の寒い月の晩海晏寺の前の大榎の傍で、往きずりに擦れ違った女の姿が浮んでいた。

(どうもあの女だ)

大榎の女はさながらの錦絵になって、火照ったようなその唇は、その晩の詞を口にするのであった。

(今晩は)

広巳は女に逢いたくなった。

(参詣に来たのなら、まだいるだろう)

広巳は眼を開けた。そこは海晏寺の前のあの大榎の見える処であった。

(おや、反対に往ってたか)

広巳はすぐ引返そうとしたが、醜い争闘を引き別けてもらったばかりの女に逢うのはきまりも悪ければ、争闘を見ていた者がまだその辺にうようよしているようで足が進まなかった。しかし、ぐずぐずしていて女に往かれては、どこの何人と云うことも判っていないので、また今度逢おうと思っても何時逢えるやら判らなかった。

(今逢って、居所をつきとめておかないと、また逢おうと思っても逢えやしない)

広巳は気まりの悪いことには眼をつむらなくてはならなかった。

(くそっ、本渓湖の戦の思いをすりゃ、なんでもねえや)

広巳の耳には砲弾の唸りがよみがえり、かたかたと鳴る機関銃の音がよみがえった。