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しゅんでい
春泥・三の酉
久保田 万太郎
線上閱讀久保田 万太郎《春泥・三の酉(しゅんでい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,075 字 · 173 頁
かれにするとそれが面白くなかった。面白くないというよりもっとすゝんで苦々しかった。さらにすゝんで不平だった。機会のあるごとに、かれは、そのいわれないことをだれを掴えても話した。が、それを聞いて、しんじつ眉をひそめるものよりも、手を打って「其奴ァいゝ」と喜ぶものゝほうが多かった。
「当世だ。――それが当世だ。――器用にそう立廻る奴のほうがいまの世の中じゃァ勝利をえるんだ。」
実際そうだった。如才ないといっても大根でかれのような正直なものは……まえに「かれとはまた違った意味で」と菱川について特にそういった所以である……つねに菱川にけじめを喰った。番毎菱川に先手を打たれた。たとえば一しょに客の座敷に呼ばれたとしても、飲む、唄う、踊る、一人でその場を切廻し、一人でその場をさらって行くのが菱川だった。役者になるまえ大阪でしばらく落語家をしていたといううわさにうそはなく、全く菱川は多芸だった。そうして「座敷をもつ」といった一切のそうしたことに妙をえていた。それにはそういう場合、舞台の役どこの「敵役」ということが飛んだかえって愛嬌になった。
そうした、その、惨めなけじめをくわないためには、後手にまわらないためには、かれとして飲んだくれるより外に方法はなかった。