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しゅんでい
春泥・三の酉
久保田 万太郎
線上閱讀久保田 万太郎《春泥・三の酉(しゅんでい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,075 字 · 173 頁
四
……が、やがて役割の決ったとき、その役はかれのところへ来なかった。その役をするものは外にあった。……
四
かれは口惜しかった。その晩、一ト晩、まんじりとも出来なかったほど口惜しかった。――夜明けに三十分ほどトロ/\としたと思うと、いつだか歌舞伎座でみた『五十三次扇宿附』の「古寺」の場での五代目の怪猫がおくらの役を好き自由にじゃらす夢をみた。――かれ自身そのじゃらされるおくらの役になっていた。――何しろ五代目の相手である、もしこれをしくじったら二度ともう舞台へ出られない。……そう思ってかれは一生けんめいだった、これさえうまく行ったら死んでもいゝつもりだった。――と、うむ、うめえ、お前は器用だ、書生役者なんぞ止めて俺の弟子になれ、……五代目にそういわれた。――やれうれしや。――そう思ったとき眼がさめた。――枕許に心細く籠洋燈が消え残っていた。――自棄で、その晩、何としてもうちへ帰れないまゝ、平生贔負にしてくれる浅草の待合へころがりこんでしまった奴である……
が、そうはいっても表立ってまだそんな苦情のいえる役者ではなかった。たゞお客の間に評判がいゝというだけで、甲部座員とはいえ、いたってまだ楽屋では栄えない身分だった。