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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

降りた途端に、万吉の肩が、腐れた雨戸を衝いたので、一枚の戸が、屏風仆しにころげ落ちた。

「お! 斬られている」

「銀五郎ッ、気をたしかにもて」

一八郎が抱き起こし、万吉が耳に口をつけて呼ぶ間も、雨は仮借なく横なぐりに降った。

「これッ、銀五郎、銀五郎」

「ううむ……」

「気がついたか、急所の傷ではない、心を緩めてはならん」

「俵様……」銀五郎は、その手を借りて懸命に立ち上がりながら、かっと四方を睨め廻した。

「わっしのことに気をとられて、ご油断なすっちゃいけません、蜂須賀家の手が廻っています」

「やっ、蜂須賀の?」

その時であった。

床下に潜んで、頃合を計っていた九鬼弥助は、ふところから用意の呼笛を出して口にくわえた。

緩い――しかし物々しい呼笛の音が、床下から、四方へピリピリと鳴り響くと、たちまち、庭手の三人を取り囲んで、真っ黒な影が乱れ立った。

細く白い刃のかげも、人に添って、あっちこっちに閃々と動き、早くも切ッ尖を低く泳がせて、狙い寄ってくる覆面もある。

「ちぇッ、足がきかねえ」と、面前の敵に歯がみをする銀五郎をかばって、俵一八郎は、さすがに落ちついていた。