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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

綱手は

(放さないで、もっと、強く、長く、抱き締めていてくれたら――)

と、思った。

「もう、すぐでございますから――駕屋、そろそろと、やってくれ」

益満は、先に立った。綱手は

(益満様に、恋をしたのであろうか――隣同士の家にいる内は、ただ好きな人であったが)

と、思うと、母に顔を見られるのが、気まり悪くなってきた。益満が、いつか

「娘時分と申すものは、手当り次第に、間近い男に惚れるからのう」

と、小太郎と、話していたのを思い出して、胸を打たせた。

(益満様なら、不足のない)

と、思うと、同じ家中で、許嫁などとなっている人々のことを思い出して、八郎太が

「益満はよいが、品行が悪いし、家柄がちがうし――」

と、いった言葉が、恨めしくなってきた。と、同時に、益満が

「御家のためには操をすてて」

と、いったのも、恨めしくなってきた。

「小太郎にお逢いなされて?」

七瀬が聞いた。

「関所の刻限がきれて――然し、明日、もう一追い仕りましょう」

さっきの茶店は、店を閉じてしまっていた。角を曲ると、宿の前に人だかりしているのが見えた。

宿の表は、三つ、四つの提灯の、ほのかな灯の中に、大勢の人影がうごめいていた。