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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁
と、考えたが、そんなことが、有るべきはずでなかったし、自分の心の迷いから、幻に見たことを、迂濶に、人には話すこともできなかった。然し、心の迷いにしては、余りに明瞭と、幻の顔が残りすぎていた。
微かに、足音がつづいて襖が開いた。方庵と、左源太と、奥小姓野村伝之丞とが、入って来た。三人とも、七瀬が、寛之助の熱を出させたように、睨みつけて、枕辺に坐ると
「何かに、おびえなされまして、急に、お目ざめになると、このお熱で――」
方庵が、額へ手を当てた。
七瀬が、身を引こうとすると
「こわいっ、いやっ――」
寛之助が、烈しく、身体を悶えて、小さい拳をふるわせつつ、七瀬の襟をつかんだ。
「左源太が、打った斬ってやりましょう。左源太は、鬼でも、化物でも、打った斬りますぞ、若」
寛之助は、顔を埋めたまま、いやいやをした。
「余程、おびえていなさる」
と、伝之丞が呟いた。
「方庵、澄姫様の時と、同じであろうが」
「うむ、気から出る熱らしいが――」
方庵は、寛之助の脈を取って
「宗英も、判らんといいおったが――」
「七瀬――何んぞ、異状無かったか?」
七瀬は、黙って左源太を見た。異状すぎた異変を見たが、それを見たといっていいか――本当に見たのか、夢を見たのか? それさえ明瞭しないことを、いいもできなかった。