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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

「小藤次氏」

岡田小藤次は、仙波小太郎の顔に見覚えのあるほか、姓も、身分も知らなかったが、小太郎は、お由羅の兄として、家中の、お笑い草として、大工上りの小藤次利武を、十分に知っていた。

小藤次は、そういって微笑している小太郎の顔を睨みつけながら、走って来た息切れと、怒りとで、言葉が出なかった。ただ、心の中では

(何を、吐かしゃあがる)

と、叫んでいた。小藤次にとって、士分になったのは、勿論、得意ではあったが、岡田利武という鹿爪らしさは、自分でも可笑しかった。そして、自分では、可笑しかったが、人から

「利武殿」

とか

「小藤次氏」

とか、呼ばれるのには、腹が立った。軽蔑され、冷笑されているように聞えて、上役の人々からそう呼ばれるのはとにかく、軽輩から

「小藤次殿」

などと、呼ばれると

「面白くねえ、岡田と呼んでくんねえ」

と、わざと、職人言葉になった。

若い者が、じりじり得物を持って、威嚇しにかかるのを、手で止めて

「手前、誰だ」

と、小藤次は、十分の落ちつきを見せていった。

「仙波小太郎」

「役は?」

「無役」

「無役?」

往来の人々が、職人の後方へ、群がってきた。