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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁
「少し待て、硯を――」
百城は、床の間の硯をとった。
「水が、ござりましょうか」
硯の中は、乾いていた。百城が、手を叩こうとするのを
「これを――」
と、化粧した使い残りの水を、鉢から、指の先で、硯へ落して
「いいえ、妾が――」
百城が、墨をとったのを見て、硯を、自分の方へ引いた。百城は、微笑して
「手が、汚れるに」
綱手は、百城の差出した墨の端を、指ではさんでいたが
「まあ」
と、低く叫んで、やさしく睨みつつ、墨を引張った。そして
「お手々が、汚れます」
二人は、墨をもったまま、一寸、顔を見合せたが、百城が
「お互に、汚れた」
綱手は、真赤になって俯向いた。
「綱手」
百城は、左手を延して、綱手の手首を、握った。
「今夜は?」
綱手は、首を斜めにして、襟元の美しさを、見せながら、黙っていた。
「戻るか――それとも――」
「どちらなりと――」
「泊るか」
綱手は、小さい声で
「御意のままに」
百城は、手と墨と両方を放して
「さて、同志の面々は?」
綱手は、黙って、墨を摺り出した。百城は、懐中から紙を取出して、筆を、硯へ入れた。
「未だ、薄う、ござります」
「そなたの、情のように――」