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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

そして、人々が、同じように、溜息をした時

「うむ」

と、低く、声をかけると、右手を押した。その瞬間、ぐっと、口が引締って、眉が、歪んだ。額に、冷汗らしく、きらきらと、浮き出してきた。

一郎右衛門は、眉に、眼に、口に力を入れながら、刃が、一寸余り入ると、張切っている皮を、左から右へ――拳が、目に立って震えてきた。

(失敗らぬよう)

と、人々は、念じた。そして、自分が、切腹しているのと同じように、額に、腋の下に、冷汗を出して、膝も、身体も、顫わせながら、蒼白になっていた。

一郎右衛門の顔は、灰色に変じた。眼の周囲に、黒い曇りが現れて来た。それは、苦痛と、それから、死の前兆であった。一郎右衛門は、二寸余り切ると、眼を開いて、肩で、大きい呼吸をした。

「なかなか――」

と、一郎右衛門は、歪んだ微笑した。だが、誰もそれに答えて、笑いもしなかったし、物もいわなかった。一人の若侍は、眼球を剥き出して、乗り出すようにしながら、手許を見つめていた。一人は、脣を噛んでいたし、ある人は、俯向いて、時々、ちらちらとしか見なかった。

切口の上と下とに、微かな血が滲み出して来て、細く、肌を伝いかけた。