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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

「羨ましいぞ、こら」

と、云って

「貴様、片腕か」

「女に手を出して、斬られたの」

庄吉も

(厭な野郎め。手前なんかに、江戸っ子がわかるけえ)

と、怒りながら

「切口の鑑定はわかっても、心の善悪は、ね」

と、いって、立上った。

「切口か、うむ、出してみろ」

「へへへ、戻ってからね」

と、いって、庄吉は、襖を出て行った。

(父の、斬死した山――)

小太郎は、夏の、陽盛りの空に聳えている叡山を見て

(そして、自分の、死にかけた山)

それは、二つながら、自分の眼で見、自分の身体に刻みつけた事実であったが、恐ろしい夢の記憶のように、自分の経験ではなく、もう一つ別の自分の経験であるように、感じられた。

床下から、調伏の人形を掘り出して以来の、旋風のような、いろいろの事件――それは、悉く、小太郎を巻き込んでいたが、自分の――人間の、体験したことではないように思えた。自分の見た、自分の芝居、事実らしい夢――それは、父の斬死にさえ、こうしていると、悲しみも、憤りも、起って来なかった。人間の経験にしては、余りに、異常な、余りに恐ろしい事実であった。

(あの山で、ああしたことを、自分がしたのであろうか)