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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

「先生」

低い、元気の無い、皺枯れた声がして、駕の垂れが、微かに動いた。

貴島が駕へ口をつけて

「垂れを、上げますか」

と、聞いた。

「出してもらいたい」

「然し――」

垂れが、ふくらんで、細い手が、その横から出た。人々が周章てて手を出して、集まった。飽津が

「牧氏、その御身体で――」

と、いった時、牧は、痩せた脚を、地につけて、垂れの下から、頭を出していた。駕につかまり、人々の手にささえられながら、斎木と、貴島に、左右から抱えられて、牧は駕から立上った。

玄白斎は、牧の顔を、じっと、睨んでいた。三月余り前に、一寸見たきりで逢わない彼であったが――何んという顔であろう。それは、身体の病に、痩せた牧でなく、心の苦しみに、悩みに、肉を削った人の面影であった。力と、光の無くなるべき眼は、却って、凄い、怪しい力と、光に輝いていた。灰土色に変るべき肌は、澄んだ蒼白色になって、病的な、智力を示しているようであったし、眉と眉との間に刻んだ深い立皺は、思慮と、判断と――頬骨は、決心と、果断とを――その乱れた髪は、諸天への祈願に、幾度か、逆立ったもののように薄気味悪くさえ、感じられるものだった。