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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新編忠臣蔵(しんぺんちゅうしんぐら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 頁

青空文庫

と一言の下に退けて、たった今、沢根伊兵衛を帰したばかりの所だった。――伊兵衛の発案ではなく、それが上野介の意中から出たものであることは十分に知りながら――又、情として忍び難いものを凝と抱きながら、はっきりと、断ったのだ。

が……苦しい。兵部も人間である。

主人の憲綱が、子として、殆ど、三十万石にも更え難いほどな焦躁に駆られて、上野介の一身を遠い米沢の地で心配している容子も、こうしている兵部の瞼には、明瞭に描くことができる。

『冷酷といわれてもよい。鬼と思われてもよろしい。むしろ、そう思わるることが、兵部が江戸へ来た使命とせねばならぬ……』

蚊ばしらが、夕闇の軒ばに、湧いてきた。

うしろで、小襖が開く。――

小侍が手をついて、

『御家老様』

『なんじゃ』

『清水一学殿と、木村丈八殿が、おそろいでお越しなされましたが』

『戻って来たか。――通せ』

待ちかねていたらしい。その響きが言葉にあふれた。

『書院がよい』

すぐに立って行く。

彼が席に着くと間もなく、一学と丈八は、通されて前に坐った。邸内の井戸で手足を洗って、埃を落してはいるが、顔にはまだ炎天の火照が、赤くのこっている。