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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新編忠臣蔵(しんぺんちゅうしんぐら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 頁

青空文庫

かれは、夜どおし胆にそれを彫りつけて寝た。殊に、明けて今日の三月十四日は、勅使、院使両卿の登場があり、将軍家奉答の式日中の大事の式日である。

白む朝を待ちかね、寝所を出た。夫人は、侍女の手も借らずに、嗽いや、塗りの水盥をそろえる。

『武士らしくもない……』

ふと、指先を、水に浸しかけて、内匠頭は窶れた自分の血色をつくづくと水に映して眺めた。

『こんな事で』

と、口惜しくも思う。不覚な涙もおぼえる。

が――顔を洗うと、彼は、掌で血色を強くこすった。常のように、礼拝をすましてからは、やや晴々となって、

『夫人、一ぷく、たてて貰おうか』

茶道は、こんな時にこそと、胸のうちでいいきかせる。

『はい』

夫人は欣しかった。女性の真情と、妻のたましいを、緑に掻いて、

『お気に召しましたら、もうお一ぷく』

『いや、もうよい』

内匠頭は、茶碗を下においた。真情の色は眼に見えても、茶の香はしないらしい。

と――、障子の外で、ひそやかに、

『ぶしつけ者二人、そっと、これ迄、おゆるしもなく推参いたしました。暫時の間、お目通りを、おゆるし下さいましょうか』

と、云う者がある。

『誰じゃ』