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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《春いくたび(はるいくたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 頁

青空文庫

半九郎は静かにおさえていった。

「土生一族が一戦もせずに逃げるはずはない、これにはなにかはかりごとがあるものと思う。今夜はここに野営しよう、進むのは明日だ」

「――銃を置け、野営の準備……」

命令が伝えられた。そしてきびしく警戒しながらその夜は峠で露営した。

明くれば四月十五日である。

半九郎は全隊士の銃に弾丸ごめをさせ、なお斥候をまえに進めながら、うずまく朝霧のなかを気をつけながら進軍して行った。――なにごともなかった、霧が晴れるにしたがって初夏の陽がつよくさしつけ、若草や木々の葉におく露はかがやかしく美しい光をはなった。……小鳥は枝から枝へとさえずりかわし、藪のなかには小さなけもののはしりまわる姿もみえる、まったく平和な山景色であった。けれど、

――いつどこから伏勢がおそってくるか?

半九郎のそういう心配は、あたりが静かであるほどかえって強くなるばかりであった。

中村第三隊は梟谷部落へついた。

半九郎はまっさきに立って部落の中心へのりこんでいた。暑いくらい照りつける陽の下に、五、六十戸ほどの家々がひっそりと静まりかえっている、だんだん下りになっている広い道にも、枡形になっている広場にも、鶏一羽、猫一匹いないのだ。