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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《春いくたび(はるいくたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 頁

青空文庫

二

「け、け、けしからん、こんなばかなことが、あるものではない。これでは、武術くらべか、か、か、かけくらべかわからんではないか、ばかばかしい――だ、だれか水をくれ」

大汗を流して怒っている。

二

二人が主君の御前へ進んで平伏すると、元親はじろりと伝九郎を見やって、

「じつに奇妙な試合だの、伝九郎。そちほどの者が、一太刀合わせただけで逃げだすとは、どうしたわけじゃ」

「は、べつに仔細もございませぬが――逃げ足の速いのも一得かと心得まして」

伝九郎は『だんまり伝九』というあだながあるくらい無口な武士、主君の問いに対してもことばすくなにそう答えたきりだった。

「なに――?」

なみいる家臣は、思わずどっとふきだしたが、元親はするどい目でじっと伝九郎の顔をみつめる――伝九郎はわるびれたようすもなく、澄んだ目で主君の方を見上げていた。その目と目、

「うん、そうか」

元親はきゅうに微笑しながらうなずいて、「よし、さかずきを取らせる、剛兵衛もすすめ」

とあかるい声でいった。

さかずきをいただいて御前をしりぞいた伝九郎が、お小屋へ下がろうとして出ると、ぞうりを取っていた老僕弥平の額に、ふと――大きなこぶができているのをみつけた。