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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《春いくたび(はるいくたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 頁

青空文庫

五

「ときに、変なことを訊くようだが」

「――なんだ」

「蜆河岸道場の出火の夜、貴公は門人たちと奥の植半で呑み明していたそうだが、あの晩貴公は道場へ戻ったのではないか」

「いいや、どうしてだ?」

「なにべつに仔細もないが訊いたまでだ」

「拙者は酒に弱いので早く酔いつぶれて、離室を借りて寝てしまった、火事の知らせがあるまで、なにも知らずに眠っていたのだ」

「では、誰も道場へは戻らぬのだな」

「無論、みんな植半にいたが……それがどうかしたのか」

「なに、べつにどうもしないさ」

兵馬はふたたびにやりとして、

「ときにどうだ甲子雄、久しく貴公と手合せをせぬが、一本立合おうではないか」

五

「急に立合いをしろとは妙だな」

「妙なことがあるものか、久しい浪人暮しで、腕が鈍ったかどうか試してみたくなったのだ、それともおれとではいやか」

「いや望むところだが……」

「ではすぐにしたくをしてくれ、思いたつと我慢のならぬのがおれの性分だ」といいながら、早くも立上る。――そのようすを見た甲子雄、おりこそ良し、骨の髄まで懲りるほど打据えてやろうと、ひそかに頷きながら、先に立って道場へ案内した。

「おい、木剣でやろうぜ」