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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《春いくたび(はるいくたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 頁
「しっかりなされい、それはどういうわけだ」
三樹八郎が耳許で叫ぶと、若侍はようやくはっきり覚めたらしくいきなり三樹八郎の手を掴んで、
「妹をお助けください、妹も彼らに斬られます、どうぞ早く、榧寺の榧の木……」
そこまでいうと、若侍はふたたびがくりと気絶してしまった。――妹が殺される、この一言が三樹八郎を起たせた。
「加代、この人を頼む、出がけに医者を呼んで行くから、しっかりと預るのだぞ」
「――はい」
「おまえも武士の娘だ、見苦しい振舞はすまい、いってくるぞ」
云い捨てて三樹八郎は外へ。
榧寺というのは俗称で、本当は正覚寺といって黒船町にあり、境内に榧の巨木があるところからそう呼ばれている、――三樹八郎は医者を頼んだその足で、宙を飛ぶように正覚寺へ駆けつけた。
山門を入るとすぐに鐘楼、そこを方丈のほうへ曲ると右手に有名な榧樹が立っている。――その木蔭に、男女二人の影をみつけたので、間に合ったと、ほっとしながら近寄り、
「失礼ながら御意を得る」
声をかけて近寄った。――相手は武家の娘とその下僕らしい老人、不意に現われた三樹八郎を見ると、きっと身構えをしながら後へ退った。