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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《春いくたび(はるいくたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 頁

青空文庫

下僕は狂気して、ほとんど泣きながら、

「若旦那様、あなたはまあ……」

とすりよった。

「爺か、春枝はどうした」

「それは拙者が申上げよう」

三樹八郎が側から始終を話して、

「と申すわけで、この老人の誤解とはいいながら、妹御をやみやみ敵手に奪われ、なんとも申訳がござらぬ、――ついては今宵のことの仔細、とくとお話しくださらぬか、拙者身に代えてもかならず妹御をお救い申上げるが」

「かたじけのうござる、お言葉に甘え何もかもお話し申す、お聞きください」

若侍は膝を正して語りだした。

彼の名は山県銀之丞という。大垣の石川備前守家臣で、父を珂右衛門といい、五百石で国許勘定役を勤めていた。同じ家中に剣術指南番で金丸湛左衛門という者がいて、これが銀之丞の妹春枝を嫁に望んできたが、良からぬ人物なので断ったところ、無法な金丸は――他にも不首尾なことがあって大垣藩にいられなくなった時のこと――珂右衛門が主君から預っていた菊一文字の短刀を盗んで逐電した。

その短刀は石川家の重宝であるため、珂右衛門は役目の落度として閉門を申付けられ、三年以内に取戻せばお咎めなし、もしそれができなかった場合には切腹という厳命が下った。