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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《春いくたび(はるいくたび)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 頁

青空文庫

――横丁を大通りへ出ると四辻の二、三軒手前に井杉灘屋という居酒店がある。その店先に黒山のような人集りがしていた。

「やあ退いた退いた、邪魔だ邪魔だ」

人混を掻分けて店へ踏みこむ、――血まみれの辰次がのたうちまわっているか、と気もそぞろに飛んできた、佐兵衛の眼前に展開したのは、なんと! 辰次はしゃっきりとして、あべこべに酔倒れている浪人者をせっせと介抱している。

「おう辰、おめえ無事だったか」

「こりゃあ頭いいところへきておくんなすった、蜆河岸の道場にいた仁木先生ですぜ」

「なんだと?」

「安吉をつれて風呂へいった帰りに、通りかかるとここで浪人者が暴れているんで、停めにへえってみたら、びっくりしましたぜ、三年めえに道場を出たまんま行衛の知れねえ仁木先生なんで」

「そいつぁあ仰天だ」

と佐兵衛が覗きこんだ、――尾羽うち枯らした装風俗、月代も髭もぼうぼうに伸びているが、まさしく仁木兵馬である。

「なるほど仁木先生に違えねえ、これじゃあどうにもしようがねえから、とにかく自家へおつれ申すとしよう」

「それがこのとおり動かねえんで」

「まあいいや、おめえそっちの肩を貸しねえ、二人で担いでいこう、――太平さん、騒がしてすまなかったな」