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しゅんでい
春泥・三の酉
久保田 万太郎
線上閱讀久保田 万太郎《春泥・三の酉(しゅんでい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 86,075 字 · 173 頁
や……そうした光景があからさまに眼にうつッた。――が、いつかそこには東京通船株式会社の、倉庫なり事務所なり荷揚場なりの古トタンをぶつけた、大きな、うす汚いバラックがいわれなく立ちはだかっていた。そうしてそのぐるりには、石油箱だのビール箱だの、石炭を入れる叺だの、鶏を入れるような、大きな、平ッたい竹籠だの、およそ野蛮な、ざッかけない、わびしい感じのするものが堆くそこに積まれてあった。――縄っ切や菜っ葉の屑のごみ/\散乱った道の上に焚火している四五人の人夫のむれも、そこから出るお台場行の汽船の大きな看板も……いえばそれも震災まえにはみられなかったものである……その下にさがった活動写真のビラも、折からの曇った空、極月のその曇りぬいた空を、一層暗く、一層味気なく、一層身にしむものにするのに十分だった。
「酷くなったなァ……」
自分に歎息するようにかれはいった。――矢っ張、田代が、長命寺の境内の甃のうえに立ってそういったように。――が、田代の場合のは、あながちそれを田代の場合に限らない、小倉がいっても三浦がいってもいゝ台詞だった。が、かれのこの場合のは、とくにそれがかれに限った感慨だった。