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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁

青空文庫

そこで今井の叔父さんの持ち場も鹿の逃げ路に当たっているので、鹿の来るのを待っているのも決して目的のないのではない。

叔父さんは今に見ろ見ろと言ってすこぶる得意の笑みをその四角な肥えた浅黒い顔にみなぎらして鉄砲をかまえて、きょろきょろと見まわしてまた折り折り耳を立て物音を聞いてござった。

折り折り遠くでほえる犬の声が聞こえた。折り折り人の影がかなたの山の背こなたの山の尾に現われては隠れた、日は麗らかに輝き、風はそよそよと吹き、かしこここの小藪が怪しげにざわついた。その度ごとに僕は目を丸くした。叔父さんは銃を持ち直した。

『オイ徳さん』叔父さんはしばらくして言った、『今しがた銃の音がしたようであッたが、あの松のあるところへ行って見なさい、多分一ツぐらいもう獲れているかもしれない。』

僕は叔父さんの言ったところへ行って見た。そこは僕らが今いたところから三、四丁離れた山の尾の一段高くなって頂が少し平らなところであった。果たして一頭の鹿が松の枝の、僕の手が届きかねるところに釣り下げてあった、そしてそこにはだれもいなかった。僕は少年心に少し薄気味悪く思ったが、松の下に近づいて見ると角のない奴のさまで大きくない鹿で、股に銃丸を受けていた。