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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁
希望なき安心の遅鈍なる生活もいつしか一月ばかり経って、豊吉はお花の唱歌を聞きながら、居眠ってばかりいない、秋の夕空晴れて星の光も鮮やかなる時、お花に伴われてかの小川の辺など散歩し、お花が声低く節哀れに唱うを聞けばその沈みはてし心かすかに躍りて、その昔、失敗しながらも煩悶しながらもある仕事を企ててそれに力を尽くした日の方が、今の安息無事よりも願わしいように感じた。
かれは思った、他郷に出て失敗したのはあながちかれの罪ばかりでない、実にまた他郷の人の薄情きにもよるのである、さればもしこのような親切な故郷の人々の間にいて、事を企てなば、必ず多少の成功はあるべく、以前のような形なしの失敗はあるまいと。
かれは自分を知らなかった。自分の影がどんなに薄いかを知らなかった。そして喜んで私塾設立の儀を承諾した、さなきだにかれは自分で何らの仕事をか企てんとしていて言い出しにくく思っていたところであるから。
「杉の杜の髯」の予言のあたったのはここまでである。さてこの以後が「髯」の予言しのこした豊吉の運命である。
月のよくさえた夜の十時ごろであった。大川が急に折れて城山の麓をめぐる、その崖の上を豊吉独り、おのが影を追いながら小さな藪路をのぼりて行く。