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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Read 三国志(一) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 309,839 characters · 622 screens
「わあッ――、わあッ」
闇にまぎれて、孫堅の幕中へ突き入り、諸所へ火を放ち、弓の弦を切って迫った。
梁東の空に、赤い火光を見ると、かねての手筈である、華雄は、※(「さんずい+巳」、第3水準1-86-50)水関の大扉を、八文字にひらかせて、
「それっ、孫堅を生擒りにしてこの門へ迎え捕れ」
と、ばかり万軍の中に馬を駆って、あたかも峡谷を湧きでる山雲のように、関下へ向って殺到した。
なんでたまろう。梁東の寄手は、たちまち駆けみだされた。
「退くな」
「あわてるな」
と、孫堅の旗本は、善戦して部下を励ましたが、その兵は、甚だしく弱かった。
一ヵ月も前から、なぜか、味方の後方から兵糧の輸送が絶えていたため、彼らは不平に燃え、軍紀は行われず、兵も痩せ、馬も痩せていたからである。
「無念」
と、思ったが孫堅も、ほどこす術がなかった。
旗本の程普とか黄蓋などとも駈け隔てられてしまい、祖茂という家来一人をつれたのみで、遂に、みじめな敗戦の陣地から、馬に鞭打って逃げ走った。
それと見るや、敵将の華雄は、飛ぶが如く馬を打って、
「孫堅、卑怯なり、返せっ」
と呼ばわった。
「何を」