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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Read 三国志(一) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 309,839 characters · 622 screens
六
江上は、真っ暗なので、その火ばかりが物すごく見えた。陸上の敵は、
「すわこそ」と、昼にもまして、弩弓や火箭を射るかぎり射てきた。
しかしそれには、兵は乗っていなかったのである。舟をあやつる水夫だけであった。孫堅の命令で、水夫は、敵にいたずらな矢数をつかい果たさせるため、暗澹たる江上の闇で、ただ、わあわあっと、声ばかりあげていた。
夜が明けると、小舟も漁船も、敵に正体を見られぬうちに、四散してしまった。そして、夜になるとまた、同じ策を繰返した。
こうして七日七夜も、毎夜、空船の篝で敵を欺き、敵がつかれ果てた頃、一夜、こんどはほんとに強兵を満載して、大挙、陸上へ馳けのぼり、黄祖の軍勢をさんざんに追い乱した。
六
船手の水軍は、すべて曠野へ上がって、雲の如き陸兵となった。
城へ逃げこんだ敵の黄祖は、張虎、陳生の両将を翼として、翌日ふたたび猛烈に撃退しにかかって来た。
そして、乱軍となるや、「孫堅を始め、一人も生かして帰すな」とばかり、張虎、陳生らは、血眼になって馳けまわり、孫堅の本陣へ突いてくると、大音で罵った。
「汝ら、江東の鼠、わが大国を犯して、なにを求めるかっ」