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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Read 三国志(一) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 309,839 characters · 622 screens
二
そういう友達の中でも、橋玄とか、何とかいう人々は、むしろ彼の縦横な策略の才を異なりとして、
「今に、天下は乱れるだろう。一朝、乱麻となったが最後、これを収拾するのは、よほどな人物でなければできん。或いは後に、天下を安んずべき人間は、ああいったふうな漢かも知れんな」
と、青年たちの集まった場所で、真面目にいったこともある。
その橋玄が、ある折、曹操へ向っていった。
「君は、まだ無名だが、僕は君を有為の青年と見ているのだ。折があったら、許子将という人と交わるがいい」
「子将とは、どんな人物かね」
曹操が問うと、
「非常に人物の鑑識に長けている。学者でもあるし」
「つまり人相観だね」
「あんないい加減なものじゃない。もっと炯眼な人物批評家だよ」
「おもしろい。一度訪うてみよう」
曹操は一日、その許子将を訪れた。座中、弟子や客らしいのが大勢いた。曹操は名乗って、彼の忌憚ない「曹操評」を聞かしてもらおうと思ったが、子将は、冷たい眼で一眄したのみで、卑しんでろくに答えてくれない。
「ふふん……」
曹操も、持前の皮肉がつい鼻先へ出て、こう揶揄した。
「――先生、池の魚は毎度鑑ておいでらしいが、まだ大海の巨鯨は、この部屋で鑑たことがありませんね」