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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

Read 三国志(一) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 309,839 characters · 622 screens

Aozora Bunko

七

彼につづいて突入してきた全軍は、たちまち混乱に墜ちた。奔馬と奔馬、兵と兵が、方向を失って渦巻くところへなお、

「どうしたっ?」

「早く出ろ」と、後続の隊は、後から後からと押して来た。

「退却だっ」

「退くのだっ」

混乱は容易に救われそうもない。

石の雨や投げ松明の雨がやんだと思うと、城内の四門がいちどに口を開いて、中から呂布の軍勢が、

「寄手の奴らを一人も生かして帰すな」と、東西から挟撃した。

度を失った曹操の兵は、網の中の魚みたいに意気地もなく殲滅された。討たれる者、生捕られる者数知れなかった。

さすがの曹操も狼狽して、

「不覚不覚」

と憤然、唇を噛みながら、一時北門から逃げ退こうとしたが、そこにも敵軍が充満していた。南門へ出ようとすれば南門は火の海だった。西門へ奔ろうとすれば、西門の両側から伏兵が現れてわれがちに喚きかかってくる。

「ご主君ご主君。血路はここに開きました。早く早く」

彼を呼んだのは悪来の典韋であった。典韋は、歯をかみ眼をいからして、むらがる敵を蹴ちらし、曹操のために吊橋の道を斬り開いた。

曹操は、征矢の如く駆けぬけて城下の町へ走った。殿となった悪来も、後を追ったが、もう曹操の姿は見あたらない。