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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Read 三国志(一) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 309,839 characters · 622 screens
六
おゆるし下さい。そして李※(「にんべん+確のつくり」、第4水準2-1-76)の残忍を、もうしばらく、お忍び下さい。そのうちに、きっと……」
云いかけた時、幽室の外を、どやどやと兵の馳ける跫音が流れて行った。そして城内一度に、何事か、わあっと鬨の声に揺れかえった。
六
折も折である。
帝は、容色を変えて、
「何事か?」と、左右をかえりみられた。
「見て参りましょう」
侍臣の一人があわてて出て行った。そして、すぐ帰って来ると、
「たいへんです。郭の軍勢が城門に押しよせ、帝の玉体を渡せと、喊のこえをあげ、鼓を鳴らして、ひしめいておりまする」と、奉答した。
帝は、喪心せんばかり驚いて、
「前門には虎、後門には狼。両賊は朕の身を賭物として、爪牙を研ぎあっている。出ずるも修羅、止まるも地獄、朕はそもそも、いずこに身を置いていいのか」と、慟哭された。
侍中郎の楊は、共に涙をふきながら、帝を慰め奉った。
「李は、元来が辺土の夷そだちで最前のように、礼をわきまえず、言語も粗野な漢ですが、あの後で、心に悔いる色が見えないでもありませんでした。そのうちに、不忠の罪を慚じて、玉座の安泰をはかりましょう。