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さんごくし
三国志
吉川 英治
Read 三国志 (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 161,356 characters · 323 screens
と、いった。
一部をとどめたほか、全軍すべて道をかえた。彼の用兵は、かくの如く、いつもとどこおることがない。
すでに、汝南を発していた玄徳は、
「よもや?」と、思っていた曹操の大軍が、あまりにも迅く、南下して来たばかりか、逆寄せの勢いで攻めてきたとの報に、
「はや、穣山(河北省)の地の利を占めん」と、備えるに狼狽したほどであった。
劉辟、都の兵をあわせ、布陣五十余里、先鋒は三段にわかれて備えを立てた。
東南の陣、関羽。
西南には張飛。
南の中核に玄徳、脇備えとして趙雲の一隊が旗をひるがえしていた。
地平線の彼方から、真黒に野を捲いてきた大軍は、穣山を距ること二、三里、一夜に陣を八卦の象に備えていた。
夜明けとともに、弦鳴鼓雷、両軍は戦端を開始していたが、やがて中軍を割って、曹操自身すがたを現し、
「玄徳に一言いわん」と、告げた。
玄徳も、旗をすすめ、駒を立てて、彼を見た。
曹操は大声叱咤して云った。
「以前の恩義をわすれたか。唾棄すべき亡恩の徒め。どの面さげて曹操に矢を射るか」
玄徳は、にこと笑い、
「君は、漢の丞相というが帝の御意でないことは明らかだ。故に、君がみずから恩を与えたというのは不当であろう。