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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

し――)

綱手は、半分の口惜しさ、悲しさと、半分の嬉しさとを抱いて、百城の戻って来る足音を聞いていた。百城は、障子を開けて

「早く、お臥みなされ」

と、冷やかに云った。

「はい、貴下様から――」

「何刻であろうか、山中暦日無く、鐘声なし」

半分、節をつけて呟きつつ、手早く、着物を脱いで

「御免」

兎のように、蒲団の穴へ入ってしまった。綱手は、その子供らしい快活さに、微笑みつつ、脱ぎ棄てた月丸の着物を畳んだ。男の体臭が、微かに匂った。益満のことを、又思い出して、二人を比較しながら

(益満様を、世にも頼もしい方と思っていたが、ここには、それにも増して、頼もしい方がいなさる)

そう思って、月丸の、後寝姿を見た時

「これは、恐縮」

月丸が、寝返って、畳んでいる自分の着物の方へ一寸手を延した。

「いいえ」

綱手は、眼がぶっつかったので、周章てて、俯向いて、畳んだ着物を素早く、蒲団の裾へ置いた。そして、月丸に背を向けて、自分も、帯を解きながら

「灯は?」

「消す」

綱手は、長襦袢姿を、見られたくはなかったので、帯を、半解きにしたまま、二つの床の真中を、静かに通って、行燈の灯を、手で消そうとした。