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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(三)酒屋火事
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(三)酒屋火事 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 146,725 characters · 298 screens
六
笑うと恵比須様になる男ですが、さすが主人の死体を前にして、沈み切って愛想っ気もありません。
先代七兵衛は十年ばかり前にこの土地へ来て、倅を育てて嫁を貰いましたが、本当の他国者で、嫁の里の外には、身寄りも友達もありません。
六
二つの死骸を繞って、事件は恐ろしく複雑になりました。番頭の佐太郎は、商売上手な四十男で人などを害めそうもない人間ですが、お吉が殺された時分ちょうど店に居なかったのと、着物に血潮がベットリ付いていたので、疑いを言い解く術もなかったのです。
それに、近頃お吉の貪慾な追求を持て余して、切れたがっていると言った噂も、佐太郎には暗い影でした。全く佐太郎にとって、この二三年来のお吉は、重荷だったに相違ありません。そのため、あっちこっちに借金を作っていることなども、調べが進むに従って、追い追いに判って来たことです。
主人の七兵衛は、本道(内科医)が立会って検屍の末、毒を盛られたと判りました。その毒は、昼頃食べた生菓子の餡の中に入っていたのではあるまいかと――言いますが確かなことは判りません。七兵衛は茶が好きだったのと、朝から昼までの食物で、一人で食べたのは、その生菓子の外にはなかったというところまで判ったのでした。