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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Read 三国志(一) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 309,839 characters · 622 screens
何進は、妹にそういわれると、むかし牛の屠殺をしていた頃の貧しい自分の姿が思い出された。
「なに、俺は、俺を殺そうと謀った蹇碩の奴さえ誅戮すればいいのだ」
内宮を出ると、何進は、右往左往する味方や宮内官たちを、鎮撫する気でいった。
「蹇碩は、すでに誅罰した。彼は我を害さんとしたから斬ったのである。我に害意なき者には、我また害意なし。安心して鎮まれ!」
すると、それを聞いて、
「将軍、何をばかなことをいうんですか」
と、袁紹は血刀を持ったまま彼の前へきて、その軽忽を責めた。
「この大事を挙げながら、そんな手ぬるい宣言を将軍の口から発しては困ります。今にして、宮闕の癌を除き、根を刈り尽しておかなければ、後日かならず後悔なさいますぞ」
「いや、そういうな。宮門の火の手が、洛陽一面の火の手になり、洛陽の火の手が、天下を燎原の火としてしまったら取返しがつかんじゃないか」
何進の優柔不断は、とうとう袁紹の言を容れなかった。
二
一時、禁門の兵乱は、治まったかに見えた。
その後。
何后、何進の一族は、
「邪魔ものは董太后である」
と、悪策をめぐらして、太后を河間(河北省・河間県)という片田舎へ遷してしまった。