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さんごくし

三国志(一)

吉川 英治

Read 三国志(一) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 309,839 characters · 622 screens

Aozora Bunko

その分なれば、踏みつぶして押し通れ」

と、呂布は激怒して、合戦の備えにかかった。

「やあ、呂布であったか」

城壁の上で声がした。見ると李儒だった。

「――敵の追手が迫ると聞き、曹操の軍と見ちがえたのだ。怒り給うな、今、城門をあけるから」

早速、呂布を迎えて仔細を告げて詫びた。

「そうか。では相国には、たった今落ちのびて行かれたか」

「まだ、この城楼から見えるほどだ。オオ、あれへ行くのがそうだ。見給え」

と、楼台に誘って、彼方の山岳を指さした。

羊腸たる山谷の道を、蟻のように辿ってゆく車駕や荷駄や大兵の列が見える。

やがてそれは雲の裡にかくれ去った。

呂布は、眼を辺りへ移して、

「この小城では守るに足らん。李儒、貴公はここで曹操の追手を防ぐ気か」と、たずねた。

李儒は、頭を振って、

「いやこの城は、わざと敵に与えて敵の気を驕らせるためにあるのだ。殿軍の大兵は、みな後ろの山谷に伏兵として潜めてある。――足下もここにいては、呂布ありと敵が大事をとって、かえって誘うに困難だから、あの山中へひいて潜んでいてくれ」といった。

李儒の謀計を聞いて、

「心得た」

呂布もいさぎよく山へかくれた。