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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Read 三国志(一) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 309,839 characters · 622 screens
「やい張卒、なんで貴様は、味方の李小方を投げおったか。また、おれ達のすることを邪魔だてするかっ」
「ゆるさんぞ。ふざけた真似すると」
「党の軍律に照らして、成敗してくれる。それへ直れ」
ひしめき寄ると、張は、
「わははははは。吠えろ吠えろ。胆をつぶした野良犬めらが」
「なに、野良犬だと」
「そうだ。その中に一匹でも、人間らしいのがおるつもりか」
「うぬ。新米の卒の分際で」
喚いた一人が、槍もろとも、躍りかかると、張飛は、団扇のような大きな手で、その横顔をはりつけるや否や、槍を引ッたくって、よろめく尻をしたたかに打ちのめした。
槍の柄は折れ、打たれた賊は、腰骨がくだけたように、ぎゃっともんどり打った。
思わぬ裏切者が出て、賊は狼狽したが、日頃から図抜けた巨漢の鈍物と、小馬鹿にしていた卒なので、その怪力を眼に見ても、まだ張飛の真価を信じられなかった。
張飛は、さながら岩壁のような胸いたをそらして、
「まだ来るか。むだな生命を捨てるより、おとなしく逃げ帰って、鴻家の姫と劉備の身は、先頃、県城を焼かれて鴻家の亡びた時、降参と偽って、黄巾賊の卒にはいっていた張飛という者の手に渡しましたと、有態に報告しておけ」