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しょうせつ ほととぎす
小説 不如帰
徳冨 蘆花
Read 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) by 徳冨 蘆花 (とくとみろか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,742 characters · 256 screens
、海村戸を鎖して燈火一つ漏る家もあらず。
片岡家の別墅にては、今日は夙く来べかりしに勤務上やみ難き要ありておくれし武男が、夜に入りて、風雨の暗を衝きつつ来たりしが、今はすでに衣をあらため、晩餐を終え、卓によりかかりて、手紙を読みており。相対いて、浪子は美しき巾着を縫いつつ、時々針をとどめて良人の方打ちながめては笑み、風雨の音に耳傾けては静かに思いに沈みており。揚巻に結いし緑の髪には、一朶の山桜を葉ながらにさしはさみたり。二人の間には、一脚の卓ありて、桃色のかさかけしランプはじじと燃えつつ、薄紅の光を落とし、そのかたわらには白磁瓶にさしはさみたる一枝の山桜、雪のごとく黙して語らず。今朝別れ来し故山の春を夢むるなるべし。
風雨の声屋をめぐりて騒がし。
武男は手紙を巻きおさめつ。「阿舅もよほど心配しておいでなさる。どうせ明日はちょっと帰京るから、赤坂へ回って来よう」
「明日いらッしゃるの? このお天気に!――でもお母様もお待ちなすッていらッしゃいましょうねエ。わたくしも行きたいわ!」
「浪さんが※ とんでもない! それこそまっぴら御免こうむる。もうしばらくは流刑にあったつもりでいなさい。