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しょうせつ ほととぎす
小説 不如帰
徳冨 蘆花
Read 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) by 徳冨 蘆花 (とくとみろか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,742 characters · 256 screens
七の二
彼女は今いずこにおるやらん。わが帰り来しと知らでやあらん。思いは千里も近しとすれど、縁絶えては一里と距れぬ片岡家、さながら日よりも遠く、彼女が伯母の家は呼べば応うる近くにありながら、何の顔ありて行きてその消息を問うべきぞ。想えば去年の五月艦隊の演習におもむく時、逗子に立ち寄りて別れを告げしが一生の別離とは知らざりき。かの時別荘の門に送り出でて「早く帰ってちょうだい」と呼びし声は今も耳底に残れど、今はたれに向かいて「今帰った」というべきぞ。
かく思いつづけし武男は、一日横須賀におもむきしついでに逗子に下りて、かの別墅の方に迷い行けば、表の門は閉じたり。さては帰京せしかと思いわびつつ、裏口より入り見れば、老爺一人庭の草をむしり居つ。
七の二
武男が入り来る足音に、老爺はおもむろに振りかえりて、それと見るよりいささか驚きたる体にて、鉢巻をとり、小腰を屈めながら
「これはおいでなせえまし。旦那様アいつお帰りでごぜエましたんで?」
「二三日前に帰った。老爺も相変わらず達者でいいな」
「どういたしまして、はあ、ねッからいけませんで、はあお世話様になりますでごぜエますよ」