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しょうせつ ほととぎす

小説 不如帰 

徳冨 蘆花

Read 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) by 徳冨 蘆花 (とくとみろか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,742 characters · 256 screens

Aozora Bunko

一の二

洋服の塵を払いて次の間の衣桁にかけ、「紅茶を入れるようにしてお置き」と小間使いにいいつけて、浪子は良人の居間に入りつ。

「あなた、お疲れ遊ばしたでしょう」

葉巻の青き煙を吹きつつ、今日到来せし年賀状名刺など見てありし武男はふり仰ぎて、

「浪さんこそくたびれたろう、――おおきれい」

「?」

「美しい花嫁様という事さ」

「まあ、いや――あんな言を」

さと顔打ちあかめて、ランプの光まぶしげに、目をそらしたる、常には蒼きまで白き顔色の、今ぼうっと桜色ににおいて、艶々とした丸髷さながら鏡と照りつ。浪に千鳥の裾模様、黒襲に白茶七糸の丸帯、碧玉を刻みし勿忘草の襟どめ、(このたび武男が米国より持て来たりしなり)四分の羞六分の笑を含みて、嫣然として燈光のうちに立つ姿を、わが妻ながらいみじと武男は思えるなり。

「本当に浪さんがこう着物をかえていると、まだ昨日来た花嫁のように思うよ」

「あんな言を――そんなことをおっしゃると往ってしまいますから」

「ははははもう言わない言わない。そう逃げんでもいいじゃないか」

「ほほほ、ちょっと着がえをいたしてまいりますよ」

一の二

武男は昨年の夏初め、新婚間もなく遠洋航海に出で、秋は帰るべかりしに、桑港に着きける時、器械に修覆を要すべき事の起こりて、それがために帰期を誤り、旧臘押しつまりて帰朝しつ。