Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しょうせつ ほととぎす
小説 不如帰
徳冨 蘆花
Read 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) by 徳冨 蘆花 (とくとみろか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,742 characters · 256 screens
四の四
たちまち柱時計は家内に響き渡りて午後二点をうちぬ。おどろかれし浪子はのがるるごとく次の間に立てば、ここには人もなくて、裏の方に幾と看護婦と語る声す。聞くともなく耳傾けし浪子は、またこの室を出でて庭におり立ち、枝折戸あけて浜に出でぬ。
空は曇りぬ。秋ながらうっとりと雲立ち迷い、海はまっ黒に顰みたり。大気は恐ろしく静まりて、一陣の風なく、一波だに動かず、見渡す限り海に帆影絶えつ。
浪子は次第に浜を歩み行きぬ。今日は網曳する者もなく、運動する客の影も見えず。孩を負える十歳あまりの女の子の歌いながら貝拾えるが、浪子を見てほほえみつつ頭を下げぬ。浪子は惨として笑みつ。またうっとりと思いつづけて、うつむきて歩みぬ。
たちまち浪子は立ちどまりぬ。浜尽き、岩起これるなり。岩に一条の路あり、そをたどれば滝の不動にいたるべし。この春浪子が良人に導かれて行きしところ。
浪子はその路をとりて進みぬ。
四の四
不動祠の下まで行きて、浪子は岩を払うて坐しぬ。この春良人と共に坐したるもこの岩なりき。その時は春晴うらうらと、浅碧の空に雲なく、海は鏡よりも光りき。今は秋陰暗として、空に異形の雲満ち、海はわが坐す岩の下まで満々とたたえて、そのすごきまで黯き面を点破する一帆の影だに見えず。