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しょうせつ ほととぎす
小説 不如帰
徳冨 蘆花
Read 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) by 徳冨 蘆花 (とくとみろか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,742 characters · 256 screens
三の二
口には笑えど、目はいささか懌ばざる色を帯びて、出で行く姑の後ろ影、
「御免遊ばせ」
と起き直りつつ見送りて、浪子はかすかに吐息を漏らしぬ。
親が子をねたむということ、あるべしとは思われねど、浪子は良人の帰りし以来、一種異なる関係の姑との間にわき出でたるを覚えつ。遠洋航海より帰り来て、浪子のやせしを見たる武男が、粗豪なる男心にも留守の心づかいをくみて、いよいよいたわるをば、いささか苦々しく姑の思える様子は、怜悧き浪子の目をのがれず。時にはかの孝――姑のいわゆる――とこの愛の道と、一時に踏み難く岐るることあるを、浪子はひそかに思い悩めるなり。
「奥様、加藤様のお嬢様がおいで遊ばしましてございます」
と呼ぶ婢の声に、浪子はぱっちり目を開きつ。入り来る客を見るより喜色はたちまち眉間に上りぬ。
「あ、お千鶴さん、よく来たのね」
三の二
「今日はどんな?」
藤色縮緬のおこそ頭巾とともに信玄袋をわきへ押しやり、浪子の枕べ近く立ち寄るは島田の十七八、紺地斜綾の吾妻コートにすらりとした姿を包んで、三日月眉におやかに、凛々しき黒目がちの、見るからさえざえとした娘。浪子が伯母加藤子爵夫人の長女、千鶴子というはこの娘なり。