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しょうせつ ほととぎす
小説 不如帰
徳冨 蘆花
Read 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) by 徳冨 蘆花 (とくとみろか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,742 characters · 256 screens
ついで講和使来たり、四月中旬には平和条約締結の報あまねく伝わり、三国干渉のうわさについで、遼東還付の事あり。同五月末大元帥陛下凱旋したまいて、戦争はさながら大鵬の翼を収むるごとく然としてやみぬ。
旅順に千々岩の骨を収め、片岡中将の危厄を救いし後、武男は威海衛の攻撃に従い、また遠く南の方澎湖島占領の事に従いしが、六月初旬その乗艦のひとまず横須賀に凱旋する都合となりたるより、久々ぶりに帰京して、たえて久しきわが家の門を入りぬ。
想えば去年の六月、席をけって母に辞したりしよりすでに一年を過ぎぬ。幾たびか死生のきわを通り来て、むかしの不快は薄らぐともなく痕を滅し、佐世保病院の雨の日、威海衛港外風氷る夜は想いのわが家に向かって飛びしこと幾たびぞ。
一年ぶりに帰りて見れば、家の内何の変わりたることもなく、わが車の音に出で迎えつる婢の顔の新しくかわれるのみ。母は例のごとく肥え太りて、リュウマチス起これりとて、一日床にあり。田崎は例のごとく日々来たりては、六畳の一間に控え、例のごとく事務をとりてまた例刻に帰り行く。型に入れたるごとき日々の事、見るもの、聞くもの、さながらに去年のままなり。