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しょうせつ ほととぎす
小説 不如帰
徳冨 蘆花
Read 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) by 徳冨 蘆花 (とくとみろか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,742 characters · 256 screens
なあ、浪。駒よか千鶴さんがうらやましがっとるじゃろう、一度こっちに来たがっておったのじゃから」
「さようでございますよ。加藤のお嬢様がおいで遊ばしたら、どんなにおにぎやかでございましょう。――本当に私なぞがまあこんな珍しい見物さしていただきまして――あの何でございますか、さっき渡りましたあの川が宇治川で、あの螢の名所で、ではあの駒沢が深雪にあいました所でございますね」
「はははは、幾はなかなか学者じゃの。――いや世の中の移り変わりはひどいもンじゃ。おとうさんなぞが若かった時分は、大阪から京へ上るというと、いつもあの三十石で、鮓のごと詰められたもンじゃ。いや、それよかおとうさんがの、二十の年じゃった、大西郷と有村――海江田と月照師を大阪まで連れ出したあとで、大事な要がでけて、おとうさんが行くことになって、さああと追っかけたが、あんまり急いで一文なしじゃ。とうとう頬かぶりをして跣足で――夜じゃったが――伏見から大阪まで川堤を走ったこともあったンじゃ。はははは。暑いじゃないか、浪、くたびれるといかん、もう少し乗ったらどうじゃ」
おくれし車を幾が手招けば、からからと挽き来つ。