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しょうせつ ほととぎす
小説 不如帰
徳冨 蘆花
Read 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) by 徳冨 蘆花 (とくとみろか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,742 characters · 256 screens
今笄町の方に過ぎし車の音かすかになりて消えたるあとは、寂けさひとしお増さり、ただはるかに響く都城のどよみの、この寂寞に和して、かの現とこの夢と相共に人生の哀歌を奏するのみ。
生籬の間より衣の影ちらちら見えて、やがて出で来し二十七八の婦人、目を赤うして、水兵服の七歳ばかりの男児の手を引きたるが、海軍士官と行きすりて、五六歩過ぎし時、
「母さん、あのおじさんもやっぱし海軍ね」
という子供の声聞こえて、婦人はハンケチに顔をおさえて行きぬ。それとも知らぬ海軍士官は、道を考うるようにしばしば立ち留まりては新しき墓標を読みつつ、ふと一等墓地の中に松桜を交え植えたる一画の塋域の前にいたり、うなずきて立ち止まり、垣の小門の閂を揺かせば、手に従って開きつ。正面には年経たる石塔あり。士官はつと入りて見回し、横手になお新しき墓標の前に立てり。松は墓標の上に翠蓋をかざして、黄ばみ紅らめる桜の落ち葉点々としてこれをめぐり、近ごろ立てしと覚ゆる卒塔婆は簇々としてこれを護りぬ。墓標には墨痕あざやかに「片岡浪子の墓」の六字を書けり。海軍士官は墓標をながめて石のごとく突っ立ちたり。