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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

Read 私本太平記(三) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 222,108 characters · 446 screens

Aozora Bunko

「街道の様子はどうだ。輦輿の同勢は、あの翌日、加古川を出て、姫山泊りか、今宿だったか」

「されば、姫山泊りでございました」

「次の日は」

「斑鳩ノ宿」

「そして、ゆうべは?」

「てっきり那波泊りと見ておりましたが、今日の船坂越えを控えてのせいか、夕道を延ばして、昨日は宵おそく、有年の光明寺と申す山寺にご宿泊です」

「なに、有年の山寺とな?」

「は」

「では、船坂峠からわずか二里余のさきではないか。山路の上、有年川を越える難儀もあるが、朝立てば、やがて早や播州側の登り道へさしかかっているはず、こうしてはいられまい」

「いやまだ、お急ぎにはおよびません」

「なんで」

「またも帝のご不例か、前日の疲れか、同勢は今朝まだ有年の山寺を出てはおりませぬ」

「はてな?」

五郎は、俄には信じない。

「備後どの」

と、高徳を見て、

「聞かれた通りな情勢だが、昨夜は夜道までかけてきた敵が、この日和を見つつ、今日は宿所に籠ったままとはいぶかしい。どう思われるな?」

「されば、兵法の語で“まぎれ”と申す一条がある。何によれ、疑心にとらわれるのは禁物だ。敵もこの険路へ向って、用心の“まぎれ”を布いているものかもしれぬ」